コートに限らず、洋服には裏地が付いています。
なぜなら、裏地があることで、すべりが良くなり着やすくなったり、蒸れやべたつきを抑えたりする役割があるからです。
しかし、近年では裏地なしの「ダブルフェイス」で作られたコートが人気を集めるようになりました。
今回は、この「ダブルフェイス」についてご紹介しましょう。
コートの裏地はなぜ必要?
コートには、ほとんどの場合、裏地が付いています。
なぜ、裏地を付ける必要があるのか、その理由をまとめてみましょう。
【すべりが良くなる】
裏地を付けることで、すべりが良くなり、コートを着たり脱いだりすることが楽になります。
実際にコートに腕を通したとき、すべりが悪いと着にくいですよね。
【蒸れやべたつきを抑える】
寒い季節に着るコートですが、人ごみの中を動いたり、満員電車に乗ったりすると、思わぬ場面で汗をかくことがあります。
そんなとき、さらりとして吸湿性や通気性の良い裏地であれば、蒸れやべたつきを抑えてくれます。
【シルエットを保つ】
裏地があることで、表地の風合いやシルエットを保つことができます。
【静電気を抑える】
寒い季節は湿度が下がって、静電気が発生しやすくなりますが、裏地を付けることで発生を抑えることができます。
【生地をきれいに保つ】
裏地があることで、体からの皮脂などが表地に移ることを防いでくれます。
このような役割のある裏地ですが、裏地なしでもダブルフェイスの素材であれば、問題はないと言います。
では、ダブルフェイスについて見ていきましょう。
なぜ人気?コートの裏地なしのダブルフェイス
それでは、なぜ裏地なしのダブルフェイスのコートが人気なのかご紹介しましょう。
ダブルフェイスとは、同じ要素の生地を2枚貼り合わせて1枚の生地に仕上げたものです。
組み合わせる生地を変えることで、厚みを持たせることもできますし、型崩れ防止、保湿効果など、機能面を充実させることができます。
通常、コートの生地は、表面を起毛させることで、毛羽立ち、感触が柔らかくなります。
また、毛羽立たせることで、生地が厚くなり、保温力もアップします。
その毛羽立たせた生地のどちらも表になるように合わせたものが、ダブルフェイスというわけです。
そのため、表生地だけを毛羽立たせたものよりも、表と裏どちらも毛羽立たせたダブルフェイスの方が、感触が良く、暖かいコートを作ることができるのです。
ダブルフェイスは、リバーシブルとは違います。
リバーシブルは表と裏どちらも着ることができるというものですが、ダブルフェイスは2枚の生地を重ねもので、表と裏どちらも着られるように仕立てたものを指すのではありません。
洋服で言うリバーシブルは仕立る方法のことで、ダブルフェイスは素材のことです。
混同しないようにしましょう。
コートの裏地なし「ダブルフェイス」なぜ着心地が良い?
ダブルフェイスを使ったコートは、暖かさはもちろんですが、着心地が良いことでも人気があります。
なぜ、裏地のあるコートよりも、裏地なしのダブルフェイスのコートの方が着心地が良いのでしょうか。
それは、生地の柔らかさによるものです。
ダブルフェイスは、「同じ要素の生地を2枚貼り合わせて1枚の生地に仕上げたもの」とお話ししましたが、生地を張り合わせるときに、見返し布や接着芯を使っていません。
見返し布とは、襟襟やボタンを止める部分の裏側に付けるもので、補強の役割や見た目を良くするために使われます。
接着芯も見返し布と同じように、襟などを補強し、見栄えを良くするために、接着剤が付いた布をアイロンの熱で生地に貼り付けていくというものです。
これらを使うと、確かに生地はしっかりし、きれいな形に仕上がりますが、部分的に厚みが出てしまい、柔らかさは出にくくなります。
しかし、ダブルフェイスは、アイロンの熱で接着する接着糸を使って合わせている場合が多いので、生地の柔らかさをそのまま活かし、心地良い着心地を作ることができているのです。
コートの裏地なしだからこそできる着こなし
コートの裏地なしのダブルフェイスは、1枚の布をまとっているような着心地感があります。
そして、裏地なしだからこそ、カーディガンを羽織るような気安さでコートを着ることができます。
例えば、ロングコートを着てみたいと思っても、裏地があるとカチッとし過ぎてしまうし、重く感じてしまうという方には、ダブルフェイスのロングコートをおすすめします。
ダブルフェイスで作られたものであれば、特徴である柔らかさと、裏地なしだからこその軽やかさが出て、ロングコート特有の重いイメージを一掃してくれるでしょう。
また、リラックスした感じや、こなれ感も出せます。
フード付きのコートも、重さを感じる場合があります。
デザインによっては、子どもっぽくなってしまうこともあるでしょう。
しかし、ダブルフェイスで作られたコートであれば、柔らかい生地のイメージを、そのまま女性らしさに変えることができます。
カチッとしたコートも、表と裏で違う色目のものを選べば、襟や袖を折り返すことで、よりおしゃれになるでしょう。
こちらも、裏地なしのダブルフェイスだからこそ、できる着こなしです。
なぜ、ダブルフェイスで作られたコートが人気なのかと言えば、このように着こなしの幅があるからでしょう。
コートの裏地なし「ダブルフェイス」は仕立てが重要
さまざまな着こなしが楽しめるダブルフェイスですが、1枚仕立ての生地と同じように仕上げるには、仕立て方が重要になってきます。
さきほど、「1枚の布をまとっているような着心地感」とご紹介しましたが、なぜそのような感触を出せるのでしょうか。
通常、裏地のあるコートと違い、裏地なしの1枚の布でコートを仕立てるには、熟練した職人技が必要です。
特に、布の柔らかさが特徴のダブルフェイスであればなおさらです。
ダブルフェイスを縫製する場合は、まず生地の縫い代部分を丁寧に剥がします。
剥がした生地の縫い代部分を合わせて、手縫いします。
そうすることで、継ぎ目までもがしなやかに仕上がり、肌に触れる部分も柔らかな生地そのままの感触を味わえるのです。
生地を剥がして手縫いするという職人技に支えられて、ダブルフェイスは素材本来の柔らかさを失うことなく、きれいなシルエットのコートに仕上がるのです。
ダブルフェイスで作られたコートを購入するときには、仕立て方にも注目してください。
「ダブルフェイス」素材のコートを購入するときの注意点
コートの裏地なしでも暖かく、機能性やデザイン性に優れたダブルフェイスについてご紹介してきました。
ダブルフェイスの特徴を活かしたコートに仕立てるには、手間が掛かることがお分かりいただけたと思います。
このように手間の掛かった製品は、当然値段も高くなります。
しかし、手頃なお値段で販売されているものもあります。
それはなぜなのでしょう。
ダブルフェイスは、同じ要素の生地を2枚合わせることで作られています。
しかし、異なる要素の生地を組み合わせることも多くあるのです。
確かに、異なる要素の生地を使うことで、個性的な生地になり、よりおしゃれな組み合わせを生み出すこともあります。
ところが、デザイン性を重視するあまり、生地をしっかり厳選せず、相性の悪い生地同士であったり、お手入れの仕方が違っている生地同士の場合もあるので注意が必要です。
収縮率が違う生地同士であれば、洗濯したときに引きツレを起こすことがあります。
また、染色の強さが違う場合には色が移ってしまったり、接着樹脂が染み出してシミを作ることもあります。
購入するときには、ラベルを良く見て素材を確認しましょう。
そして、なんと言っても大きな違いは、縫製の仕方にあります。
継ぎ目までしなやかに手縫いで行うか、ミシンで縫製するかでお値段は大きく変わってきます。
裏地なしのコートを購入するには注意が必要
機能性やデザイン性に優れたダブルフェイスで作られたコートですが、購入するときには注意が必要です。
生地を2枚張り合わせているので、表と裏であまりにも違う要素の生地ですと、引きツレや色移りなどを起こしてしまうことがあります。
また、ダブルフェイスの良さを最大限に引き出すには、仕立ての技術も重要です。
購入するときには、素材や縫製の確認を忘れずにしましょう。