メンズファッション雑誌などで、「ジレ」という単語を目にする機会が増えてきました。
果たして、この「ジレ」とは、一体何のことなのでしょうか?
「ベスト」や「チョッキ」と何か違うのでしょうか?
今回は、そんな今さら聞けない「ジレ」について詳しくご説明しながら、着こなし方も併せてご紹介していきたいと思います。
「ジレ」「ベスト」「チョッキ」何が違うのか?
「ジレ」も、「ベスト」も、「チョッキ」も、インナーとアウターの間に着る、袖のない衣服(中衣=ちゅうえ)のことを指します。
「ジレ/gilet」はフランス語、「ベスト/vest」はアメリカ英語、「チョッキ」は日本語です。
ちなみにイギリスではベストのことを「ウエストコート/waistcoat」と言い、ベストというと、タンクトップのような肌着という意味になります。
日本語の「チョッキ」は、シャツの上に直接着ることから「直着(ちょくぎ)」が語源だとも、「ジャケット」が訛ったものだとも言われていて、はっきりしたことは分かりません。
いずれにしても、それぞれ言い方は違いますが、すべて同じものを指していると言っても間違いではありません。
しかし、日本国内でメンズのファッション用語として使われているジレには、ベストと大きな違いがあります。
ジレの着こなし方は、中衣としての意味合いが強く、基本的にジャケットの下などに着るので、外から背中側は見えません。
そのため、前側は上質な生地を使っていますが、背中側は前側ほど上質な生地を使ってはいないのです。
日本で言うところのベストは、アウターとしても着られる場合が多く、前側と背中側で違う生地を使うことはほとんどありません。
そこで、前後で質感の違う生地を使った袖無しの衣服のことを、ベストと区別するために、日本国内ではジレと呼んでいます。
メンズのファッションアイテム「ジレ」の歴史を知れば着こなし方も分かる
ジレの歴史は古く、原型と言われる「タブレット」は、15世紀後半のヨーロッパで着用されはじめ、17世紀の半ばまでは、メンズのアウターとして使われていました。
1650年に入ると、タブレットの形は徐々に変わりはじめ、袖丈や着丈が短い物が主流となっていきます。
身幅も少しずつ狭くなっていき、この頃から徐々にアウターから中衣へと変化していったのです。
1660年代には、市民や兵士の防寒着から変化した「ジェストコール」と呼ばれるアウターを着ることが主流となり、その後、ジェストコールの前を開けて、下に着ているジレが見えるようにする着こなしが流行りました。
ジェストコールのなかから見えるジレには、派手な色柄ものや刺繍などの豪華な装飾を施すようになります。
ジレには、まだ袖が付いていたので、袖にも装飾が施されていました。
1800年代になると、ジェストコールのデザインがよりタイトになり、ジレの袖がきつく感じられるようになったことから、袖がなくなり、今日まで続くデザインになったのです。
ジレには、シャツやガーディガン、肌着という広い意味もあります。
しかし、歴史の流れから見ると、ファッション用語で使う場合には、アウターの下に着る袖のない中衣ということになります。
メンズジレの基本的な着こなし方とマナー
メンズジレの歴史を見ると分かるように、ジャケットの下からさりげなくジレを覗かせる着こなしがおしゃれとされてきました。
そのため、ジレを着るときは、ジャケットのボタンを留めないことが基本になります。
もちろん、会議や取引先へ行く場合など、きちんとした場面ではジャケットのボタンを留めた方が良いのですが、ジレにもボタンが付いているので、ジャケットのボタンを留めていなくても問題はありません。
かえって、ジレを着るときには、ジャケットのボタンを留めないほうが、抜け感が出てこなれた着こなしになります。
また、ジレに付いている一番下のボタンは、カーディガンやベストと同じく、外しておくのがマナーです。
特に5つボタンや6つボタンなど、デザイン性の高いものは全部留めておくのは無理があるので、下のボタンは外しましょう。
ちなみに下のボタンを留めなくなったのは、イギリスの国王だったジョージ4世がボタンをかけ忘れたことからはじまったと言われています。
メンズの「ビジネス向けジレ」の着こなし方
ビジネスシーンでジレを着こなすには、デザインや色の選び方が大切です。
オフィシャルの場で着るものですから、シンプルなデザインのジレを選びましょう。
代表的なデザインは次の通りです。
【襟なしシングル】
襟のないシングルのメンズジレは、スリーピーススーツの定番のスタイルです。
ジャケットの下にジレを着ることで、ネクタイを結んだシャツのVゾーンが引き締まります。
大人の余裕と落ち着き、そして、おしゃれなでタイトな着こなしができます。
【襟付きシングル】
襟が付いたものを「ラペルドベスト」と言い、襟なしのジレよりもクラシカルで英国調な着こなしになります。
襟があるため、胸元に立体感が出るでしょう。
それによって上半身の大きさが強調され、より男性的なシルエットに見せることができます。
【襟なしダブル】
襟なしシングルよりも、ダブルの方が重厚感が出ます。
ジャケットのボタンを留めてしまえば、ダブルかシングルか分からなくなるので、シーンに合わせてジャケットのボタンを調整すると良いでしょう。
【襟付きダブル】
襟なしダブルよりもさらに重厚感が増すので、年齢や立場などを考えて着用することをおすすめします。
メンズのビジネス向けジレ「色の選び方」
次に、メンズジレの色について見てみましょう。
スリーピースの場合、スーツと同じ生地でジレを合わせるのであれば、問題はありません。
しかし、通常のスーツやジャケットスタイルにジレを合わせた着こなし方をするときには、少し注意が必要です。
着まわしが利いて無難な色と言えば、多くの人が「黒色」を思い浮かべのではないでしょうか。
しかし、ビジネス向けのジレは、黒色は避けたほうが良い色と言われています。
黒色のジレは、どちらかと言うと、若者向けのスタイリッシュな仕立てものが多く、バーテンダーなどの職業を連想しかねません。
ビジネスシーンで着る場合は、グレーか紺色が良いでしょう。
グレーや紺色であれば、シンプルで落ち着いた印象になるので、どんなものにも合わせやすく、ビジネス向きです。
また、ジレを選ぶときには、糸密度が高く起毛していないものにすると、オールシーズン着ることができ、きちんとした印象になるのでおすすめです。
クールビスで大活躍!メンズジレの着こなし方「ジレパン」とは?
これまで、メンズジレをジャケットの下に着ることを前提でお話してきました。
しかし、ジレは「ジレパン」という言葉があるように、ジャケットを着なくても、ジレとパンツだけで格好の良く見える着こなし方があります。
特にクールビズで、ネクタイを外してシャツとパンツだけになると、だらしなく見えてしまうことがありますが、ジレを着ればすっきりとしたデキる男スタイルになります。
ジレパンスタイルで気を付けたいのが、「サイズ」です。
ジレもスーツと同じように、必ずジャストサイズを選ぶようにしてください。
せっかく素敵なスーツを着ていても、ジレのサイズ感が合っていないと、途端に野暮ったいイメージになってしまいます。
ジャケットを着ているときは素敵でも、脱いだら野暮ったいのでは、せっかくの素敵なスーツも台無しです。
腕回りやウエストのサイズはもちろんですが、ジレとパンツの間からシャツが見えてしまうような短い丈ですと、間の抜けたようになってしまいますし、反対に長いと服に着られているような印象になります。
ジレの丈は、パンツの後ろポケットとベルトの間が目安です。
また、ジレだけで着るときも下のボタンは外しておくと、こなれ感が出せます。
メンズジレは着こなし方でカジュアルにも
メンズジレは、クラシカルな雰囲気を出したり、クールビズでも格好良く見せたりするのに欠かせないファッションアイテムです。
近年では、カジュアルなパンツやシャツにジレを合わせる「ジレパン」も定着しつつあります。
着こなし方で、ビジネスにもカジュアルにも使うことができるので、質の良いジレを持っているとコーデの幅が広がるでしょう。