コートの前合わせ、オシャレな女性でも右前はアリ!

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右前と左前、男性用と女性用

洋服の前合わせとして耳にすることの多い「右前」と「左前」。

コートでは、男性用が「右前」で女性用が「左前」です。

この男女によって分けられている右前と左前のルールですが、その起原には、諸説あるようです。

有力なのは「男性は自分で服を着るものだが、女性は召使いによって着せてもらうから逆になった」というものです。

この説、男性が自分で洋服のボタンを掛けるのは分かるのですが、女性は自分でボタンを掛けないということに違和感を覚えた方もいらっしゃるかと思います。

それでは、召使いにドレスを着せて貰うお姫様を想像してみましょう。

ドレスは、前開きのものよりも前は閉じているものが多く、背中側を紐で編み上げるか細かいピッチのボタンで留めることになります。

背中のボタンは、どう頑張っても自分では掛けられません。

前ボタンや袖口のボタンだったとしても、きつく締めた細かいピッチのボタンは、召使いに手伝って貰わなければ掛けられないでしょう。

召使いの作業に適した合わせが、左前だったという説です。

試しに右前と左前の両方でボタンの掛け外しをしてみると、意外なことに気が付きます。

ボタンを掛けようとする時、ボタンホールの付いてる側を押さえて、もう一方の手で持ったボタンを突き刺すように入れます。

この時、ボタンを器用な手で持った方が上手くいくことに気付きます。

右利きにとっては、右側の身頃にボタンが付いている、右前の方が便利だということになります。

ところが、片手で外そうとしてみると話は変わってきます。

ボタンをボタンホールに通して外すよりも、ボタンホールの側を引っ張るようにして外すほうが、楽に外せるのです。

右利きの人が片手で外す時には、左前の方が便利だということがわかります。

多数派の右利きの人にとって、右前が両手でボタンを掛けやすく、左前が片手でボタンを外しやすい合わせということがわかりました。

召使いの身分だった女性たちは働き者です。

片手に物を抱えて走り回っていたことを考えると、両手でボタンを掛けやすい合わせよりも、片手で開けやすい合わせのほうが歓迎されたという一面もあるかも知れません。

そうは言っても、その昔から男女で右前と左前の区別が有ったかというと、そうでもありません。

面白いのはナポレオン(1769年~1821年)の肖像画で、「右前」も「左前」もどちらのものも存在しています。

明示的に謳われるようになったのは、18世紀末の「服の仕立方教本」への記載からだといわれています。

一般に定着するようになったのは、更に時が経ってアメリカのファッション雑誌「ヴォーグ」の創刊(1892年)からでした。

それまで男物として作られていたスーツを女性が着るようになりましたが、それが借り物ではオシャレではありません。

そもそもが女性仕立てなのだと主張するには、前合わせで棲み分けしてしまうのが、分かりやすかったという面も有ったのかもしれません。

着物は男性も女性も右前

さて、日本ではどうだったかとなると、弥生時代までは貫頭衣(かんとうい)や巻布衣(かんぷい)であったようで、前合わせは存在していませんでした。

日本の右前と左前の考え方は、飛鳥時代に遣唐使などを通じて中国から持ち込まれたもののようです。

中国では、唐の時代に「天帝は北辰(ほくしん)に座して南面す」との思想で、左が上位として尊ばれていたそうです。

皇帝が不動の北極星を背負って座ると、日が昇る東が左で上位に、日が沈む西は右で下位になるのです。

その思想を受け入れていた日本では、奈良時代の元正天皇が「右衿の礼」という詔を出し、位の高くない国民は全て衣服を右前に着なければならないとなりました。

ふすまや障子のはめ方についても、日本では右が手前で奥が左の右前が基本のルールです。

右前のルールが押し付けられた形になった着物ですが、実際に着てみると右前が受け入れられた理由が良くわかります。

着物の合わせは、右の身頃を身体に沿わせて当てた後に、左の身頃を被せるようにし、帯で押さえます。

着物にフィットしている右上半身は自由に動くのですが、帯に引かれた左半身には突っ張るような感覚が生まれます。

また、右手を懐に入れやすいのも右前ですし、左に帯刀した刀を抜く時に裾が邪魔をしないのも右前の特徴です。

どちらも男性にとって都合の良いというだけであって、女性にとってはどうでも良いことだったかも知れません。

日本の着物自体が、右前を前提とした文化となっているのです。

さて、それでは現代のコートでは男性と女性の違いはどのようになっているのでしょうか。

女性が男物のコートを着ること

男性用のコートを女性が着ることは、間違いでしょうか。

いいえ、それは決して間違いではありません。

それではなぜ、男性用、女性用が区別されているかというと、求められるシルエットに違いがあるからです。

男性の身体は筋肉質で肩が盛り上がっているのに対し、女性の身体はなだらかに肩が下がり気味です。

男らしさを見せるなら肩幅は広くなりますし、女性らしさを見せるなら肩幅は狭く、ウエストは華奢なものが好まれます。

既製服でこのシルエットの差を出すには、女性用と男性用で分かれている必要があるのです。

その上で、実際に着てみたシルエットが自分の期待に沿うものならば、女性が男性用のものを着ても問題はありません。

大ぶりのコートであれば体型の差も吸収されますし、そのギャップを使ってガーリーにアピールすることもできます。

男性とお揃いでキメるには、女性用で合わせるよりも男性用で合わせる方が、選択の幅も広がります。

ただし、右前のコートを着ていることに違和感を覚える世代も確実に存在します。

そういった、固定観念による偏見も受け入れる覚悟と一緒に、オシャレを楽しみましょう。

ユニセックスのコートは基本的に右前

右前のコートは、何も男性用のものだけではありません。

男女兼用のコートの中には、左右両方の前合わせができるものも存在していますが、基本は右前です。

最近では、作る側にも「右前は男性専用」のイメージは無くなっていると言えます。

ユニセックスの定番とも言えるチェスターコート。

軽く柔らかな素材感は着心地の良さを確保しつつも、作り出すシルエットは、上品で落ち着いた大人の着こなしを生み出します。

パンツにもスカートにも合わせるのも、チェスターコートの強みです。

ラフな着崩しのイメージリーダーとも言えるモッズコートは、米軍の野戦用パーカーがルーツです。

フードがついたボリューミーなモッズコートは、その生い立ちが持つワイルドさの反面、着丈の長さで縦のラインが強調されるスタイリッシュなアイテムとも言えます。

ユニセックス向けにアレンジされたトレンチコートは、大きめの襟やたっぷりとした袖などで女性らしさを演出するパーツも装備しています。

袖をまくってルーズに着こなせば、思った以上の肌見せ効果も期待できるかも。

ユニセックスのダッフルコートは、幅広いカラーバリエーションが魅力です。

襟ぐりから一続きになったラグランスリーブのものを選べば、女性らしい柔らかさを演出することもできます。

暖かさと優しさを提供するキルティングコートもまた、ユニセックスアイテムの定番でしょう。

堅苦しさを排除した女性らしい色使いで、自分をアピールしましょう。

ダッフルコートの基本は両合わせ

大きなフードとトグルという特徴的な留め具で可愛らしささえ感じてしまうダッフルコートですが、一般的になったのはイギリス海軍で使われた外套の、終戦後の放出品としてでした。

その名前のルーツは、使用しているメルトン生地の原産地であるベルギーのデュフェル(英語名ダッフル)で、もともとは北欧の漁師の仕事着だったそうです。

ボタンではなくトグルが採用されているので、手袋をしたまま着たり脱いだりするのが楽で、大きなフードは軍服の上から羽織る外套として適していました。

イギリス海軍は艦上で用いるため、風向きに合わせて右前でも左前でも前を留めることができるようにしました。

当時は戦時中ということも有るのでしょうが、男性だから女性だからという拘りは無かったのでしょうね。

Pコートも同様の理由で右前でも左前でも留めることができましたが、現代では軍艦の居住性が上がったことやコスト削減のために右前か左前かどちらか一方の対応が主流です。

ダッフルコートのトグルも、Pコートのボタンも、もとは海軍の艦上作業のためでしたが、今でも特徴的で通常のファッションにおいて歓迎されるデザインとして残っています。

コートの前合わせはお気に入り優先で

男性用は右前、女性用は左前の原則を持つコートですが、それほど拘る必要はないということが分かっていただけたかと思います。

また、拘りに捕らわれないユニセックス仕立てのコートがあります。

ダッフルコートやPコートは、もともと右前でも左前でも着ることのできるコートでした。

かつては便利だったはずの、片手でボタンを外なければならない場面も困るほど多くはなく、もはや刀を抜く場面はありません。

右前左前について残っているルールは、既成品を作る時のパターン分けや、男女で役割に違いを持たせたがる古い慣習でしかありません。

自分が気に入ったスタイルなら、自分を思ったように見せてくれるスタイルなら、右前でも左前でも、どちらを選んでも構わないのです。

ただ、気を付けなければならないのは体格の差です。

ユニセックス仕立てのものならいざ知らず、男物となるとそもそもの体型が違うのです。

必ず試着してみて、自分の身体に合うものを選択するように心がけましょう。

右前と左前、男物と女物、男らしさと女らしさ

洋服には、前合わせの右前と左前が存在します。

しかしそれは、男物と女物という括り方とは、完全に一致するものではないことがわかりました。

それは、女性らしさというものは「女物を身に付けているから」という具体的な指標によるものではなく、「自分が作り出す雰囲気によるもの」に変わってきたのだとも言えます。

自分の主張、相手への伝わり方、たくさん考えてオシャレを楽しんでください。